創業者対談とは

 本連載は、クラウドエース株式会社の創業者である吉積が、創業者で既に上場を経験している経営者と対談する連載企画です。
 創業者にとって上場は、会社の運命を握るターニングポイントと言っても過言ではありません。上場までの苦難と喜び、上場を機に訪れる変化。経験者達はそれらをどう受け止め、乗り越えてきたのか。これから同じ道を歩もうとするクラウドエースの創業者が、対談によって引き出したエピソードの数々をお伝えしていきます。
 同じく創業者で上場を経験した方でも、共通する部分もあれば、全く異なる状況に直面することもあるでしょう。それぞれが一言で語れぬストーリーになっており、そのひとつひとつに、経営者の信念や哲学を感じられます。上場を目指す経営者と、その企業を支える全ての従業員の皆さまに、これからのキャリアを考えるヒントにしていただきたいと思います。
 記念すべき第1回は、吉積のアクセンチュア時代の後輩であり、みらいワークス代表取締役社長の岡本祥治さんにご登場いただきました。

取材直前

吉積: もともとこの企画やろうかなって思ったのは、元ハンズの長谷川さんの「IT酒場放浪紀」なんだけど、知ってる?
岡本さん: いや、知らない。
吉積: 長谷川さんが、まあこういう系の人たちと対談するっていう連載なんだけど…。
(ページ見せながら)
 で、ハンズラボやめても評判がいいんで、IT メディアで掲載させてくれっていって、連載してるんだって。俺も呼んでって言ってんだけど(笑)
岡本さん: へぇー。
吉積: で、全く同じじゃあれだから、ちょっと趣向を変えて、創業者で上場している人と話をするってのが、面白いんじゃなかろうか、と。今、僕も目指してるから。結構候補になりそうな人もいるし。
岡本さん: 他は誰がいるの?
吉積: 僕の同期同月の藤代とか。
岡本さん: アクセンチュアで創業社長で上場した人ってたしか9人くらいいたはず。
吉積: へえーカウントされてんだ。
岡本さん: リクルートを超えられるかもしれないよね。

起業のきっかけは?

岡本さん: どこまでぶっちゃけていいのかな?
吉積: まあ、一応レビュー入れてもらうから、ぶっちゃけて(笑)
岡本さん: 2000年に慶應義塾大学の理工学部を卒業したあと、色々な業界を見ることができてスキルを伸ばせると考えてアンダーセン・コンサルティング(現在のアクセンチュア)に入社して5年勤めて、そこで戦略から業務、ITまで一通り上流から全部やらせてもらって。5年経って、たまたま学生時代の知人と再会して、別の会社に勢いで転職しました。その会社で2年ぐらい働いた後、独立しようと思って。
吉積: へー。どうして、また独立しようと思ったの?
岡本さん:30歳になろうとしていたけど、まだやりたいことが見つからなくて。そんな中、もっと日本の事を知りたいと思うようになって、国内47都道府県すべてを旅行して。それまでも旅行が好きで海外にはよく行っていたものの、国内、特に地方について知らない事が多いと感じて。地方を訪れると、県庁所在地の街の中心部の商店街がシャッター通りになっている。その光景を目の当たりにして、日本はこのままでいいのかと思って。その後青森のねぶた祭を見て、「日本を元気にしたい」と思って、ビジネスのテーマも決めずにそのまま一か月後に会社をつくっちゃったんだよね。
吉積:日本を元気に!だけ笑
岡本さん: それでとりあえず食べていくためにコンサルやろう、ってなってフリーのコンサルタントを始めたんだけど。
みらいワークス立ち上げるまでの4年半になにがあったかっていうと、リーマンショックもあって全然食えない状態の時もあったんだけど、1年くらい頑張ってるとそれなりに仕事取れるようになって、自分は大丈夫になってきて。でもまわりのフリーランスとか起業家の人たちは仕事取れなくて困ってる人達いっぱいいて、その人達にもらった仕事をパスするようになり。それで今のビジネスモデルっぽいのがひとつできた、と。
 アクセンチュアの時、クライアントファーストみたいなことを教え込まれたし、自分でサービスを提供して、お客さんからありがとうって言われるのは嬉しいんだけど、それ以上に周りで仕事なくて困ってる人に、仕事を紹介してその人達から「ありがとう」、「助かったわ」って言われる方が自分が気持ちよくて。要は、自分でサービス提供するよりは、誰かにチャンスを提供するほうが性に合ってるのかなと思うようになって。
 本格的にこれもビジネスとしてやろうと思ったのが2010年。それでやり始めたら、面白いもんで、その人達に何をやりたいですかって色々聞くようになって。そうするとだいたいやりたいことって地方創生か、中小ベンチャー支援か、もしくは海外進出支援。

 どれをやったとし、こんだけ日本を元気にしようとする人がいっぱいるのに、日本ってやっぱり起業家とか、フリーランスに対してはなかなか社会基盤が整ってなくて、活躍しきれてない。その人達が活躍できるような社会インフラを自分で作ってしまえば、結果として「日本を元気に」って思いが実現できるんだって思って。自分自身でやるのやめて、そういう人たちの志を形にできるような社会基盤を作ろうと本格的に没頭し始めたのもあるし、自分よりも優秀なコンサルタントなんて世の中にいくらでもいるって、このビジネス始めてからも余計思ったし。そこでフリーコンサルタントのトップを目指すんじゃなくて、自分ならではのトップの目指しからもあるんじゃないかと思って。当時の起業したての自分を助けてくれる社会インフラがなかったからそれを自分で作ってしまおう。それでこのビジネスをやり始めたって感じかな。

上場を決意した瞬間

岡本さん: やり始めて4年くらいたったタイミングでプロジェクトに100%入りながら、何人もコンサルタント回してやってる時に、もうパッツパツで回らなくなって(笑)で、もう組織化しようと走り出したのが2012年の3月。
初めは絶対に上場は目指さないと思っていたんだけど、フリーランスのプロ人材向けのプラットフォームを世に広めるにあたって、ベンチャー企業では知名度が低く、また大企業と口座開設するときに財務基盤が弱いのがネックになると感じて。このビジネスモデルは日本では新しいビジネスだから、認知されるのに時間がかかるとも感じていて。色々振り返ってみると自分のやりたい仕事でマネタイズできてて、日本を変えることができる可能性があるチャンスが目の前にあって。じゃあ勝負しようって思って全財産つぎ込んで…。そういうシナリオで走り出したのが2015年の春。
吉積: そのタイミングでIPOもやるしかない、と。

一番苦労したこと

岡本さん: それからは結構しんどかったね。組織的に目指し始めたタイミングは2015年の7月で、それより前にいた社員で、上場時まで残っていた社員って5人かな。他の人は一通り辞めてって。
吉積: それはなんで?
岡本さん: いくつかあるかな。もともと会社としてスピードアップしてて、社外の体制とかもちゃんとするようになって、それに息苦しさを感じたりとか。
2015年末くらいに経営理念とかビジョンとか行動指針とか全部変えて、その行動指針を社内でかなり浸透させようとしたから、それに合わない人に対しては、居心地悪くなった人もいたはず。1年半くらいは離職率もかなり高くて、毎月送別会とかしてた。
 けど結果として、合わない人は採用しなくなって、理念を変えてから入社したひとの離職率はすごく低くなったからうまくいったのかな。それだけ人が入れ替わりながらも、売り上げを伸ばすって本当しんどくて。
吉積: でも、そこで上場しなきゃならない理由ってあったの?
岡本さん: いつくか短期でやらなきゃならない理由があって、そのひとつが、働き方改革とかフリーランスに対する追い風がある中で、ちょいちょい競合が出てきてたこと。
 いろんな話を聞いてると、そんなにいいサービスを提供しているようには見えなかった。うちは個人が活躍できるような、そのための社会インフラを作りたいと思った時に、間に入ってマージンぬいてなんぼみたいなプレーヤーが出てくると、個人にとって頑張りがいのある世界にならないなって思って。じゃあとっととうちがマーケットをとってしまって、本当に個人が挑戦できる世界を創るべきだと思っていたから、なるべく早くいかなくちゃなって思いがあった。無理くりでも最短のスケジュールでいくぞ、と。

 働き方改革のど真のでそれなりに注目を集めてもらって、名前も知ってもらえて。結果として無理してよかったなって。

上場して良かったこと

岡本さん: 振り返ってみると、色々あったんだけど、無理しながらもこの選択をしてよかったかなというのはありますね。やることによって社会的責任とかは感じるので、身が引き締まる思いはするかな。株主の人たちを考えると、個人のことだけでできなくなっちゃうから。会社を経営するにあたっての考えも相当変わったかな。ビジネスをちゃんとできる環境になってるからそれはいいなって思う。完全なプライベートカンパニーだとやりたいようにできちゃうし。
岡本さん: 会社として上場するために狙った理由は3つあって、ひとつはクライアント登録者の獲得。ふたつ目は採用。みっつ目は財務基盤。この3つの目的はすぐ達成された。リスティングとかじゃなくて今は自然流入とかの方が圧倒的に増えたし、みらいワークスっていう社名検索で来て登録っていうのが今一番多い感じになったから。それなりに名前も売れて来たし。
 採用も、転職エージェントの対応も変わってきたのが一番かな。上場しているという信頼があるから、ちゃんと人を提案してくれてる。口座開設で開けない会社ってないからね。そのへんが圧倒的に会社としてよかったことかな。
吉積: 事業計画上でいうと、上場する前に立てた計画から修正しなきゃならないレベル?
岡本さん: ほぼ予定通り。
吉積: その予測って難しくない?
岡本さん: それなりにストレッチして立てて、結果としてそれ通りにやりきったって感じ。ガッツでやるしかない!(笑)その前の年も、その前も同じような感じでやってて、90パーセント達成とかもあったけど100パー超えたのはそういう効果もあるかなって。
岡本さん: 前はコンサルティング会社の下請けをメインでやってたんだけど、事業会社にシフトをして、今売り上げの3/4くらいが事業会社からの直接の依頼になって、ビッククライアントとの取引がふえた。誰もが知っているような大企業さんと仕事させてもらうようになっているから、あれは上場してなかったら無理だったんじゃないかなぁ。
 個人的には、いちベンチャー企業では知り合う機会がなかったような人を紹介してもらえるようになったり。経済同友会に入会させてもらっているんだけどさ、ああいうとこでいろんな人とあって、実際仕事にもなるし、色々勉強させてもらって。
吉積: そういうの大きいよね。
岡本さん: まあ来てる人が財閥系の社長とか、雲の上すぎるけど、上場している創業社長だけのコミュニティもあるし。
吉積: この対談のコンセプトにあってる人ってこと?
岡本さん: そうだね。
吉積: ぴったり!じゃあ、困ったらぜひ紹介して笑

考え方はその人の経験に基づいて出来ている

吉積: 話戻るんだけど、社員がどんどん辞めてる時期、ストックオプションとか配らなかったの?
岡本さん: それはある程度退社する人が収まってからかな。落ち着いたころ。
吉積: 引き止め策には使わなかった?
岡本さん: しなかった。逆に残った人たちにちゃんと配りたかったから。配れる数も決まってるし。ストックオプションもらって辞めたのは数人かな。残って欲しかったから渡したんだけど。当時はうちのビジョンを手綱にしていて。辞めて行っていた人が入社した時には、違う経営理念とビジョンだったから。元々みらいワークスがもっていたビジョンではあるんだけど、ここまで「日本を元気に」とかいうのじゃなかったから。そういった意味では社内のトーンとか目指すところとかは、全然変わったはず。そういうことに違和感を覚えた人もいるんじゃないかな。
吉積: 採用の時もそれを明確な指針にして、それに合う人を採用するから離職率も減るってことね。
岡本さん: うち全会議室に行動指針貼ってあって、面接でそれについてやっぱコミュニケーションするからね。
吉積: へぇー。
岡本さん: 挑戦とか変化とかそういう言葉があって、そういったキーワードに対してどういう反応をするか。そういう価値観が腹落ちする人じゃないとうちの会社やっぱ合わないから。
吉積: そこのコンセプトに腹落ちするかどうかってさ、面接に来てる人って「そうですよね」って乗っかってくる気がするんだけど?
岡本さん: 過去の経験と照らし合わせて、それに乗っかる経験があるかどうか。自分の言葉で説明できるかどうか。うちも人材ビジネスやってるから、面談とかってものすごい数やってるし、会話の中で違和感を感じた時は、これはやめた方がいいってなるかな。
吉積: なるほど。
岡本さん: 考え方っていうのは、その人の経験に基づいてできてると考えているから。誰かから伝えられたのか、自分でなにかをやったのか。それが言語化できないとしたらそれはそれで問題だし。そこを掘って行って、たどり着けたら、あ、なるほどね。ってなるし辿り着けなかったら採用しないし。この面接の手法は新卒だとあんまり効かないけど、中途だと結構いいかな。

To Doではない、ミッションを実現するために仕事をする 

吉積: うちも一応、嘘をつかないみたいな、正直を仕事にするっていうのを一応ビジョンっていうかフィロソフィーにしていて。ビジョンは、クラウドで世界をよくするみたいな。行動指針はコアマインドっていうので定義してるんだけど。
吉積: 今話きいても、これでやろう!って最初から決めてやってたわけじゃないのが面白いなと思う。
岡本さん: やってるうちの自己体験だからね。それからこれを変えたいってなってるわけだから。結果として後から理由はついてきたかな。
吉積: それは強いよね、自己体験があると。僕も Google Cloud がいいなって思ったのは、出て来た瞬間にインフラエンジニアとしてもこれ最高だ!って思ってやって来たものだから。
岡本さん: 時代がくる前からやってて、後から時代がついて来た!ってパターンだから、一緒なんじゃないかな笑
吉積: そうそうそう!当時岡本さんのビジネスはじめたって聞いた時も、アクセンチュア卒業生のメーリングリストかなんかで見ただけだけど、なんでなんだろう?そこ需要あるんだ!?とか思った。
岡本さん: アクセンチュアの人とか同じビジネスをやっている人もいたしね、片手間でやっている人が多かった印象だけど。で、やってみてわかったのが、プロジェクトに参画してパフォーマンスを発揮する人が、セールスもできるかっていうと、そうじゃない人もいる。現場で活躍するのと案件見つけてくるのは別の話だから。サラリーマンの時はいいんだけど独立した瞬間に苦手なところっていうのは顕在化しちゃうから。そういった意味で、すごく意味があるんだろうなって。
 全員が全員コンサルタントとしてやっていきたいと思っていないし、どっちかっていうと自分の事業があって、働きたい時だけ働いてマネタイズできて、それを自分のビジネスに使いたいみたいな人がいると、働きたい時に働ける環境っていうのはすごく意味があるなって。これもやってるうちに気づいた感じだけど。
吉積: ちょっと前から、顧問名鑑とか、退職した60~70代の人たちをちょっとの時間使います、みたいなのはあったけど、それとはどういう差別化してるの?
岡本さん: 30~50代で現場に入り込んで常駐型で実行力を提供するってことだから、アドバイスだけをする仕事とは全然違う。この辺が難しくて、コンサルティング会社は経営課題に対してどういう風にプロジェクトを立ち上げていくかを提案して仕事を受注するけど、それと同じようなことをうちもやっていて。ただ違うのは実際に業務をするのはフリーランスですよってこと。
 営業の難易度とかも正直高いし、業務委託契約でやってるから、それを考えると粗利20パーセントでわざわざこのビジネスをやろうとする人はなかなかいないかなと。だからうちのビジネスモデルみたいなのを大々的にやっている会社がないのは、そういう理由。昔、某大手人材企業が同じモデル立ち上げたけど、結局4年やって、彼らは止めてしまった。人材ビジネスとプロジェクトを回す事は全く違うことだからね。
 でもこのモデルをやっているのにはある程度強みがあって、利益率だけ考えたら、この仕事をやらないんだよね。普通に社員を採用してコンサルティングするほうが利益率は高くなるからね。たまたまプロ人材に活躍の場を作ろうと思った時にこのビジネスモデルになった訳で、利益うんぬんって考え方をしていないから他のプレーヤーとはやる意義とか意味が変わって来ちゃうんだよね。それがうちの強みであり、特徴。
だから株主さんに説明するのが大変だったりしちゃうんだけど笑
吉積: やりたいことベースにやると、そうなってくる傾向はどうしてもあるよね。
岡本さん: ビジョンを追いかけ続けようとなったらね。
吉積: 結局最終的にはクラウドになっていく中で、ITゼネコンじゃないけど、ああいうところに任せている場合じゃないっていうのが僕の根本的な思いで。アクセンチュア時代にああいうとこと付き合って、彼らはいまいちだなって印象があって。そこをなんとかしないと日本が元気にならない。日本のGDPの向上が少なくて、ITで便利になっているのに効率がよくなっていないのは、セキュリティで誰も責任とらないから無駄が多くて。ITの恩恵を受けようと思ってもそれを帳消しにするくらいの変なことが起こっていて、誰も責任をとらないのも大きな問題だけど。
 もう一個は、既存のものをやるほうが、ビジネスモデルとしてはいいからっていうことで新しいことをやらないSIerとか保守費を取ることに執着してたりそういうところに問題の源泉がある気がしていて。そこを止めるのが、世の中を元気にするための1つの方法だと思っていて、僕はそっちの観点から見てる感じ。クラウドの波にのってうまく乗って、僕らなりのかっこいいSIを推し進めていけるんじゃないかというのと、そこにうまく Google のAI系が乗ってくれば、いいバリエーションもついて、みんなハッピーになれるんじゃないかってことで今やってんだけど。
岡本さん: たしかに、日本の人って、変わりたくない、リスク取りたくないって人が多いからね。その辺をなんとかしていきたいと思っていて。プロ人材の働き方を変えますっていった時にフリーランスとかに限らず、企業の中のプロ人材の働きかたも変えたいと思っていて。
 アクセンチュアでは当たり前だったけど、時間給じゃなくて、アウトプットで仕事をするとか、To Doじゃなくて、ミッションを実現するために仕事をするとか。これはうちが考えているプロの働き方。日本の企業っていうのはそれよりも自分のミスとか、ハシゴを外さないようにするとか、出世するためには減点方式だからっていう考え方をしていて。ああいうところをね、どうやって変えていくのかなって。
 うちって、フリーランスのビジネスやってる会社の中では珍しく大企業がお客さんだから、そこにフリーランスの人たちを送り込むと、面白いもんで大企業の人たちも「こんな働きからあるんだ!」「自分たちもできそうじゃん!」っていって、実際にそういった働き方をやり始めたりとか。
吉積: すごいねそれ!
岡本さん: 要は起業してる人とかフリーランスの人って、今までの人生のなかでそういう人と出会ってて、自分の人生の選択肢に入ってる、だからやろうとするわけ。でもずっと学歴社会で生きていて、大企業に新卒で入った人っていうのは、そういう人たちを見たことがない。じゃあ見せちゃえばいい、で結果としてこれだったらやれるなって思わせたら勝ちだなと思って。もちろん全員じゃないけど。でも5パーでも10パーでもいいからそういう風に思ってくれる人がいれば、自分もプロの働き方をしなきゃいけないじゃんって意識は変わっていくはずだし。啓蒙みたいなこともやりながら、世の中どうやって変わっていくんだろうって。当然時間かかるのはわかってるんだけど、変えようと思わないと変わらないから。うちはそのためにひたすら戦うしかない。簡単には変わらないけど。
吉積: 素敵。

上場しない選択もあった?

岡本さん: 自分のやりたいことが社会を変えるとか、日本の仕組みを変えてやろうとかそういう気持ちになったからたまたまこういうことになってるんだけど、人材ビジネスにおいては顔と顔を合わせている目の前の人のために!っていう考え方もあって。昔は自分もその考え方だったんだよね。
 顔が見えなくなるのは絶対嫌だったし、昔はウェブから登録してくれた人は全員顔合わせようよって言って、全員と会っていたかな。どうやっても我々からは仕事を紹介できなさそうな人とも面談してたし。
 でもある時から、その人の幸せのためにってなったら限界があるなって。どっかでこれは無理だよねって諦めなきゃならない。それよりは、社会を変える、こっちのほうがやるべきかなと俺は思った。もしその時にface to faceを大切にしてたら、多分IPOはしてない。たまたまその時の価値観が社会インフラにいってたから、理にかなってるなと。どっちがすごいとか、良い悪いじゃなく、なにがやりたいかとかの哲学の差でしかないから。たまたまそうだったって感じかな。

いま改めて一番感謝すること

岡本さん: うちの会社って、登録者もそうだけど紹介がめちゃくちゃ多いんだよね。今はウェブとかでも集まるようになってるけど、クライアントなんて9割以上紹介だから、人と人とのご縁で仕事してる。アクセンチュアの同期からとか、10年来の知り合いとか。そこでぱっと仕事もらうことも多いから、個人的にもいろんな機会をもらって来てるかなと思うと改めて誰かによりも、きっかけをくれた多くの人に対して感謝したいなと思っていて。
 ひとつひとつのタイミングで、自分のことを引き上げようとしてくれてる人たちがいて、そのチャンスに応え続けなくちゃと思っているうちにビジネスが広がって来たなと思っているから。
逆に今はチャンスを提供するというか。頑張らなくちゃいけない環境を誰かに渡して、その中でどんどん上がって行くっていうのをやらなきゃならないのかなと思っていて。
もちろんそれに応えられない人もいるから気をつけなくちゃいけないんだけど。
 志高くとか頑張りたいと思っている人に対しては渡して行くべきだと思うし、そういう人たちを引き上げるっていうのが必要なことかなって考えるようになってきたのは、自分がそういう人たちにお世話になって来たからかな。
吉積: 人材ビジネスっていうとあれだけど、人と人を引き合わせてやっていくって面ではそこはめちゃめちゃ大事ですね。

(左:岡本様 右:吉積)

編集後記

岡本さんのビジネスにかける想いが強く伝わる対談となりました。
上場が企業にとって大きなターニングポイントであることは間違いありません。
そこから大きく変わること、そして上場後も変わらず大切にしなければいけないこと。
ひとりの社員としても、考えさせられるテーマがいくつもありました。
上場前後のお話しは、これから上場を目指す企業で働く方にもぜひ読んでいただきたいと思います。