東京理科大学 理工学部 経営工学科 様は、JRA日本中央競馬会と共同で、AI(人工知能)を活用して酪農を発展させるための研究に取り組まれております。
このプロジェクトは乳牛のミルクの成分を収集・管理し、解析するもので、近い将来、多くの酪農家に役立ててもらい、人間にとっても牛にとっても幸せな未来を創造することを目指して研究が行われております。その様な研究で用いられる膨大なデータを管理し、解析するために GCP が活用されています。

GCP を使うことで従来よりコストパフォーマンスが改善されたといいます。今回は、GCP 導入の経緯や利点、クラウドエースの対応などに関して、西山研究室 様よりお話を伺いました。

GCP 導入までの経緯

東京理科大学 理工学部 経営工学科は、「哺乳子牛と搾乳牛のトレーサビリティの高度化」というテーマで、JRA(日本中央競馬会) の支援のもとで研究に取り組んでいます。これはAI(人工知能)を活用して酪農を発展させていこうという JRA 関連のプロジェクトの一つです。従来、酪農家には乳牛の親子関係の追跡が困難であったという問題がありました。また、乳牛の健康管理も酪農家によっては体系化が充分とは言えませんでした。
そうした課題に対し、乳牛のデータを収集し、AI で解析しようとする研究が今回の取り組みです。
酪農家は年々、減少傾向にあります。そのため、より楽に、生産性の高い健康な乳牛を育てることが必要不可欠です。どのようにすれば良い乳牛が生まれ、どう育てれば良いのかを、蓄積したデータをもとに「ルール化」し、最終的に酪農家の方々に活用して頂くことが究極的な目的です。
テーマにあるトレーサビリティ(Traceability)とは、トレース(Trace:追跡)とアビリティ(Ability:能力)を組み合わせた造語で、「追跡可能性」と呼ばれるものです。親子関係等を追うためのデータを、改ざんが極めて困難なブロックチェーンに集積し、酪農業界で活用してもらうことでマーケットの健全化を図ろうとしています。
現在、3年間の目標として乳牛5,000頭のデータを収集しています。ただし、日本全国で考えれば約130万頭もの乳牛がいます。そこで問題となるのが、この膨大なデータをどこに集め、どのように解析するかということです。特に解析には大量の計算リソースが必要となるため、GCP 環境を活用することになりました。

システム構成と構築について

方法としては、牛に情報収集用のセンサーを取り付けるのではなく、最近酪農の現場に導入が進んでいる哺乳ロボットと搾乳ロボットを活用し、哺乳ロボットから子牛のデータを、搾乳ロボットから母牛のデータを集め、最終的に一括でトレースできるよう解析を試みます。
そのため酪農家の方々と哺乳ロボットメーカー、搾乳ロボットメーカーに協力を依頼し、各メーカーのロボットから得られるデータをそれぞれ収集させて貰っています。
牛のミルクから抽出した成分データ等を、各酪農家の牛舎内に設置してある各メーカーのロボット制御PCに収集し、それを東京理科大学のPCに転送します。そしてデータを GCP 環境上に構築した高速論理型機械学習器で解析します。
スタート時はヨーロッパ2か所、アジア圏3か所、アメリカ1か所の計6か所の GCP リージョンにて検証を行い、2019年2月の時点で日本5か所、シンガポール2か所にて運用していました。

GCP を導入した効果

実は一度、大学内に解析専用のサーバーラックを設置し、30台のPCをつなげてみたことがあります。すると、大量に熱を発し続けるため夏場はおろか、冬でも冷房を付けなければいけないほどでした。そのためこれ以上の台数増加は実施困難と判断しました。
その点、GCP は必要なときに必要な分だけ計算リソースを借りて、必要がなくなれば適宜返却できるのもメリットです。またそれだけでなく、今回の最大のメリットは、論理型機械学習器を用いた解析において短時間で信じられないくらいの活動リソースを得られたことです。
従来、論理型機械学習器は学習にかかる時間が遅すぎることが欠点として知られていました。PCを1台だと最短で48日間かかる解析タスクで、10台使っても5倍、30台使っても10倍といった具合で、十分な能力向上が得られなかったのです。それを人工知能を用いた分散型にすることでCPUを30個使用すると約42倍、180個使用したら180倍以上にスピードアップに成功しています。このことで、GCP を活用すれば活用するほど、解析速度は向上し、その分、費用対効果が向上します。これは重要なパラダイムシフトだと言えます。

現時点では学習をするために大量の計算リソースが必要ですが、学習を完了して得られた成果を活用する段階になれば、さらにコストは下がります。我々はそうした成果が得られるようシステムを構築し、解析を実施してきました。今後、得られた成果が我々の手から離れたとしても、別の組織などで簡単に運用することもできます。GCP を採用したのは、その運用が楽だということも理由としてありました。

クラウドエースの支援

クラウドエースは はじめに相談をお願いした Google のご担当者様 から紹介してもらいました。我々が素早く活用できるように開設準備や支払いの処理のお手伝いをしてくれています。
もちろん、他にも3社ほど比較検討しました。あるところは月額課金で使っても使わなくとも費用が発生するところもありました。しかし、クラウドエースは従量制。使わなければ費用は発生しませんし、さらに使いたいというときも柔軟に対応してくれます。

今後の予定

我々は人間にとっても乳牛にとっても幸せな未来を創造することを目指しています。酪農家の方々には労働時間の削減、利益の向上を。乳牛にとっては長寿で健康的、そして快適な生活です。もっとも乳牛の幸せを我々が議論してよいのかはわかりませんが・・・・・・。

高速論理型機械学習器は世間一般に認知されている人工知能(ディープラーニング)と違うタイプの学習器です。高速論理型機械学習器では「病気になる場合、このような事情がある」つまり結果に対する原因までを分析し、それを人間が直接判読可能な「ルール」の形式でアウトプットできます。そのようなアウトプットは、ディープラーニングなどではまだ得ることが難しい成果であり、また酪農家が解析結果を信頼する上で非常に重要な根拠となります。

しかし、現状ではこれを扱えるエンジニアが世界的にも少ないことが悩みです。しかし、GCP によるパラダイムシフトが起きた今、より実践的な機械学習の手法の一つとして注目を集め、それによって我々のシステムを改良してくれる人が現れることを願っています。


東京理科大学 理工学部 経営工学科 西山研究室
https://www.tus.ac.jp/


日本中央競馬会
http://www.jra.go.jp/